サラダ油に火はつかない

あのーこれは私の友人のー、そうですね、仮にAさんとでもしておきましょうか。その人から聞いた話なんですけどね。 Aさん、仕事帰りに小田急の電車に乗ったんですけどね、座席に座ってウトウトー、ウトウトーってなっていたんです。そしたら急にキキキーって…

全身麻酔して骨に穴を開けた話

仰々しいタイトルだが経緯を説明しよう。 卒論提出した、やったね! 今季スノボ行けてなくてつまんないんだよねーじゃあ今から行くかー。うひょースノボたのしー! あーでもこの辺雪硬くて怖いなぁ。うわ前の人転んだ! 躱せたけどこっちも無理だわ、転ぶー…

卒部しました(下)

平成31年5月1日。 令和という元号が誕生したため「存在しない時間軸」としてこう表現されるのを何度が見たことがある。平行世界なるものが存在するのならば、向こうの世界の2020年、平成32年はどんなものだったのか。ひとつまみほどの妬ましさをまぶしながら…

卒部しました(上)

「…これで2020年度最後の稽古を終わります。…」 同期の声が聞こえた。終わってしまうらしい。ここに来てようやく実感が湧いた。 「…正面に対し、礼」 休憩時間に後輩から卒部の感想は?と聞かれた。何も思いつかなかったから笑ってごまかした。 「…お互いに…

今度飲みに行きましょう

「また機会があったら呼んでください」 年始に高校の部活のメンバーで集まった後、後輩からインスタのDMでご丁寧に連絡がきた。LINEではなくインスタを使ってきたとこに少々面食らったりもしたが、結局それ以降会っていない。お互い東京に出てきた身なのでそ…

坂道

「同じ坂でも進む方向次第で登り坂にも下り坂にもなる」とか聞くけれど、じゃあ登りが辛いからって反転して坂を下ったところで進むべき道は進めていないし、坂を目の前にした本人からすれば何の解決にもなっていないわけでありまして。 水の低きに就くが如し…

作り話

世界の滅亡まであと1時間。女はベッドに腰掛けたまま躊躇していた。昔の恋人に電話をかけるか否か。 しばらく悩んだ末に電話をかけた。 「おかけになった電話は電源が入っていないか、電波が…」 女は枕にスマホを投げつけた。 どうせ、どうせ… 世界の滅亡ま…

手帳を買いに行った話

不要不急の外出を控えろと言われ続けて、実際僕は家にこもってぐうたらな生活をしていたのだが、やはり必要な外出をすることもあるわけでありまして。 僕は手帳探しの旅に出た。 手帳とかどう考えても不要不急の外出なんだが、今の僕にとっては手帳はやはり…

バケツのおじさん

家から駅までの道中に、広場というか、ちょっとした公園がある。 朝、ときどきその公園で散歩をするおじさんを見かける。 なぜだか知らないが、彼はいつも後ろ歩きをしている。 初めて見たときは少なく見積もって三度見くらいはしたと思う。 普段の僕ならば…

骨折り損のくたびれもうけ

今年の夏は色々ありすぎた。フィンランドに行き、お伊勢参りをし、同期たちと飲み、そして骨折した。 絵に描いたような転落劇だった。今年の夏は今までの人生で一番楽しいのでは? 計画の段階でそんな予感があり、確かにめちゃくちゃ楽しかった。骨折するまで…

用意された悲劇

最近、漫画を読む機会が多い。知り合いにジャンプ大好き人間がいるのだが、彼のおかげでそれはそれは大量の漫画を読ませていただいている。とりあえず鬼滅の刃は読むべき。 つかみはこの辺にしておいて、漫画というか、フィクションのお話。標準を知らないの…

右も左も分からない

まぁ俺はまだ人生1周目だし、なんなら平均の1/4程度しか生きてないんで、人生露頭に迷うわけでありまして。 っていう話じゃなくて。物理的に、左右がわからないっていう話。 いや左右がわからないって意味わかんねぇよって思うじゃん? 別に右と左って言葉は…

モノローグ

「自分を自分たらしめるものは、何だ」 それは自意識だ。理性的な僕が答えた。 そんなこと当たり前じゃないか、何を今更、そう問いたげだった。 彼は続けた。 自分自身がこうありたい、こうあるべきだと考え、それを体現した結果が今の自分だ。だったら己の…

まだ知らない声

「ねぇ、何読んでるの?」 そう話しかけられたことがある。知らない女から。 駅で電車を待っていたときのこと。僕は一人で本を読んでいた。 何の変哲も無い、平凡な帰り道。僕の少し前に立っていたその女は、突然振り向き、尋ねてきた。 –––––小説ですよ 少…

真実って何だ

小説が好きだ。 幼い頃から本を読むことが好きだった。漫画よりも小説を好んでいた、なぜかは未だによくわからないが。漫画ももちろん好きだが、小説の方が読んでいて楽しいと思っている。 文字だけの世界。自分の想像で物語を自由に色づけることができる。…

Side B

窓から差し込む光に誘われ、私は静かに目を覚ます。 いつも通りの、なんの変哲もない朝。ゆっくりと体を起こす。少し頭が痛い。 ベットから降りて大きく伸びをする。ここは病室。 そう、私は入院している。何日も、何ヶ月も。ひょっとしたら何年も、かもしれ…

Side A

窓から差し込む光に誘われ、僕は静かに目を覚ました。 視界に入っているのは真っ白な壁、いや、天井か。ゆっくりと体を起こす。少し頭が痛い。 ここはどこだろうか。 昨日のことを思い出そうとしても、頭痛がひどくなるばかり。考えてはならないと、脳が警告…

特殊性を追い求めて

「一年生になったーら、一年生になったーら、友達百人できるっかな?」 百人規模で作ってしまった友達はたぶん大した関係ではないような気がする。 新年度だ。そういう噂を耳にした。実感はない。 世の中にはこの時期に新入生とか新社会人とかいう人種が大量…

寝ても醒めても、人は夢見る

「しょうらいのゆめは?」 –––––クワガタ!!! 隣の子がカブトムシって答えてた対抗心からだった。 絶対カブトムシよりクワガタの方が強いし 幼稚園の頃のこと。 「しょうらいのゆめ」を聞かれたのでとりあえず答えた感じだったか。僕は幼い頃のことなんて…

はじめの一歩

「大人になるってなんだろう。」 最近頻繁に考えることがある。それでも結論は出ない。結論を出すべきことなのか、それすらもわからない。 先日成人式に参加した。大人になった自覚は正直ないが、少なからず周囲からは自分を大人として扱ってくるはずだろう…

さくら色の夢

「・・・くん?」 懐かしい声とともに、最も付き合いの長い呼び名が聞こえた。 いつのことだったか、大学1年くらいだったか。 大学の学園祭で、小学校同期と再会した。 すれ違いざまに突然声をかけられたのだった。 再会を果たした時、なんと声をかけるべき…

エピローグ

「なぁ、この後どうすんの?」 僕の中の声が、そう問うた。 何をしようか、何をすべきか、何も考えていない。 まぁなるようになるさ しようもないモノローグ、感傷にまみれた一人語り、下手くそな一人芝居––––– 幾度となく続けてきた。そうやって自分の中に…